「焼き物の街」岐阜・多治見の街を歩く
岐阜県の多治見市の街を歩いてきました。千利休の弟子で「利休七哲」にも名を連ねた戦国大名・古田織部からはじまったといわれる「織部焼き」の産地として知られている街です。今でも、多治見を含め岐阜県で生産された、いわゆる美濃焼の食器は、全国の生産量の60%を占めていると聞いたことがあります。
そんな焼き物の街・多治見には、焼き物の店や古い家屋が並ぶ「オリベストリート」という街並みがあるということを聞いていたので、カメラを持って散策してきたのですが、この多治見の街の雰囲気や風景がどこか懐かしく、また、切なさを含んだような複雑な気持ちにさせてくれるのです。
ふと思い出したのが「サウダージ」。懐かしいとか、切ないとか、一言で言い表せない感情を、ポルトガル語で「サウダージ」というそうです。郷愁、憧憬、思慕、切なさ、などの一言では言い表せない感情。この多治見の街には「サウダージ」という言葉が似合う気がしたのでした。
懐かしさや郷愁を感じる土岐川の景色
多治見の駅からオリベストリートのある街の中心部まではおよそ1キロ強。市内を流れる土岐川の向こう岸に渡ることになります。
街中を流れる川ですが、水はきれいで、土手の感じもどこか懐かしい。反対側の土手を親子連れが歩いていたりして、のどかな気持ちになりながら、川沿いを歩いていきます。
自分が住んでいた街はここまで立派な川は流れていなかったけど、どことなく懐かしさを感じるのはなんでだろう。
時々、犬の散歩をしている方やマラソンをしている方とすれ違いながら、川岸を歩いていきます。
多治見の中心・本町オリベストリート
多治見駅から20分ほど歩いて、目的地の本町オリベストリートに到着しました。本町オリベストリートは陶器店やギャラリー、古い家屋を活かしたカフェなどが並ぶ、全長400メートルほどの街並みです。
もともと本町のエリアは明治時代から昭和にかけて陶磁器問屋や古い蔵が立ち並ぶ、商業の中心地だったそうです。現在は、昔の趣を残す家屋を活かしたギャラリーや飲食店などが軒を連ねる通りとなりました。
古い家屋の店先で名産の織部焼きをはじめ、焼き物や民芸品が売られている姿を見たり、中でゆっくり食事を楽しむ方の姿を見たりする中で、古くから続くものへの尊敬や郷愁の気持ちが心の中に浮かんでくるものです。
オリベストリートは交番も街の雰囲気造りに一役買っているようです。ステキ。
大通りのオリベストリートから一本二本と路地を入っていくと、これまた歴史を感じさせる蔵や建物が並ぶ路地裏へと誘われていきます。なまこ壁や大きな蔵など、当時の隆盛さがうかがえる建物ばかり。現在は人通りは決して多くないけど、立派な建物からは当時の賑やかな街の雰囲気が伝わってくるようです。
多治見の街は路地裏も見逃せません。
懐かしさと切なさが交わったような多治見銀座商店街
路地裏からまた大きな通りに出ると、アーケードの商店街にぶつかりました。ここは多治見銀座商店街。昭和30年代に誕生した当初は80店舗以上が軒を連ねていたそうですが、今では30店舗ほどになってしまい、シャッターが閉まった店が目立っていました。
ゴールデンウィークということも重なっていたのか、人がほとんどいなかったのがずっと印象に残っている場所です。全国の多くの商店街が同じような感じで、人が減ってるんだよねと思いつつ、アーケードから射し込む太陽の光が、人の少ない商店街のシャッターを照らしているのがやけにまぶしくて、なんとも言えず寂しい気持ちを覚えます。
商店街にあるおもちゃ屋さんには、色褪せ具合から30年は貼られていそうなガンダムのPOPが。懐かしいというか、まだあったのか!というか、よく残っていたなぁ。
おもちゃ屋さんには子供向けのおもちゃ以上にモデルガンやラジコンヘリ、ドローンなどが並んでいたのが印象的。子供が減ってきているから、なのかもしれません。ちょっと切ないおもちゃ屋さん。
懐かしさと切なさみたいな感情がクロスする商店街。また、来てみたい。
新たに人が集まる場所
一方で、多治見には古い建物をリノベーションして、新たに人を呼び込んでいるお店がいくつもありました。
本町オリベストリートにある「そば処 井ざわ」さんは江戸時代末期から明治にかけて建てられた商家を改装したそば屋さん。
昼は1時間2時間の待ち時間は当たり前の人気店のようです。たまたま開店時間前にお店の前を歩いていたら、少しずつ人が集まっていたのを見つけて、開店と同時に入店することができました。
地元・多治見の井戸水で〆たおそばと丼もののセットメニューを頼んでみました。そばは歯ごたえよく、そばそのものの風味が楽しめます。シンプルでおいしい。
かき揚げは、野菜の甘味が引き出されていて、それでいて油っぽさなく食べられる上品な一品。そばと合わせて適度なボリュームで、そしておいしい(語彙力がない)。
お店の中は、古い家屋の雰囲気を残しつつ、キレイにリフォームされていました。間接照明で、店内が程よく暗いのがどことなく古い家屋の感じがあって好きな雰囲気でした。
こちらは古い銀行の建物を活用している「ARTIGIANO」というパン屋さん。古い日本家屋が残る街並みで、ひときわ目立つ西洋建築ですが、シックな外観は街にしっかり溶け込んでいました。
フジパングループが展開しているパン屋さんで、店内には本格的な石窯を設置して、焼き立てパンが人気のようです。こちらのお店もお客さんがひっきりなしに入っていました。うちの奥さんと息子くんもパンが好きなので、多治見に誘う口実になるかな。
裏路地を歩くと一軒の立派なお屋敷が見えてきました。明治創業の料亭が、今は結婚式場として使われている「川地屋」さん。和婚だけでなく、古い蔵をチャペルに改装してキリスト教式の結婚式もできるとか。この日も結婚式が行われていました。
古く歴史のあるものを活かして、新しい価値を生み出すことは素晴らしいですよね。多治見の街に新たなエネルギーを注入している存在みたい。
懐かしくて、切なくて、また行ってみたい、多治見
一通り多治見の街を散策して、多治見駅と中心街をつなぐ「ながせ商店街」を歩きながら、駅に戻ります。
多治見市は1980年頃から名古屋市のベッドタウンとして人口が増加していましたが、2009年をピークに、今は緩やかに人口が減少していて、特に若い世代の人口の減少が目立っているようです。
5年前と比べると40代中盤以降の世代の人口がほぼ横ばいから増加に転じているのに対して、乳幼児から働き盛りの40代までの世代は10%以上の減少に転じていました。
多治見市も若い働き盛りの世代や子育て世代の転入を目指して、まちづくりに取り組んでいるということですが、その効果はこれから出てくるのか、どうなのか・・・出てくるといいなぁ。若い世代が増えると、街も活気づきますからね。
次に来たときはどんな姿になっているかわかりませんが、また多治見に来たときには、この日感じた懐かしさや切なさ、古き良き時代への憧れや郷愁を感じるのかもしれません。
世界の中でも異国語に翻訳しにくい言葉である「サウダージ」。私もちゃんと理解しているわけではないのですが、こんな気持ちがもしかしたら「サウダージ」なのかな、と感じた多治見の街でした。